【営業コラム】NO.5 営業の成長を決めるのは、いまも「数」である 〜仕組みとAIの時代に、いちばん語られなくなった変数〜

目次
こんにちは。株式会社Goofy代表の八木です。
前回(NO.4)のコラムでは、「インサイドセールスのマネジメントは『分業』から『AIとの協業』へ」というテーマで、AIに任せる業務と人が担うべき業務を切り分け、人は顧客との対話や課題発見といった、人にしかできない価値創出に集中すべきだとお伝えしました。
思えばここまで4回、私は一貫して「仕組み」「設計」「再現性」の話をしてきました。それは本心ですし、いまも営業組織づくりの本筋だと考えています。
ただ今回は、そこから少し外れた話をさせてください。テーマは「数をこなすことの重要性」です。やや古臭く聞こえるかもしれません。それでもこれを選んだのは、支援先で「この人は伸びたな」と感じる瞬間を振り返ると、驚くほど高い確率で、その直前に本人の行動量が増えているからです。仕組みを整え、ツールを入れ、設計を磨く。そのすべてを進めたうえで、最後に効いてくるのはやはり数だった。現場に入るほど、この実感が強くなっています。
なぜ「数をこなせ」は語られなくなったのか
かつて営業の世界では、「数をこなせ」は当たり前の合言葉でした。それがここ数年、ほとんど聞かれなくなりました。理由はいくつか思い当たります。
一つは、この言葉が長らく根性論とセットで語られてきたことです。「とにかく足で稼げ」「断られてからが営業だ」。行動量の話が精神論の衣をまとってしまった結果、いまでは口にすること自体がためらわれる空気があります。
もう一つは、効率化とデータ活用の潮流です。少ない打席で確実に決める、当たる相手を見極めて集中する。これは正しい方向ですし、私自身がお手伝いしてきた領域でもあります。そして前回書いたとおり、単純な活動量を増やすこと自体は、いまやAIが得意とする仕事になりました。
こうして「数」の話は、古い時代の遺物のような扱いを受けるようになりました。しかし、語られなくなったことと、重要でなくなったことは、まったく別の話です。むしろ誰も言わなくなったいまだからこそ、根性論から切り離して、丁寧に言い直しておく価値があると感じています。
「率」は結果、「数」は行動。コントロールできるのはどちらか
営業の現場では、受注率、商談化率、接続率といった「率」の議論が絶えません。もちろん重要な指標です。ただ、マネジメントの現場に入って感じるのは、率を目標に据えた瞬間に、メンバーの行動が縮こまっていくケースが非常に多いということです。
率は、あくまで結果として現れる指標です。顧客側の予算、検討タイミング、競合の動き、決裁者の交代。自分の外側にある変数に大きく左右されます。にもかかわらず「率を上げろ」と言われると、人はどうするか。勝てそうな案件しか触らなくなり、難しい相手を避けるようになります。分母を減らせば、率は簡単に上がってしまうからです。四半期末に受注率だけが妙に高く、案件数が細っている。そんな数字を目にしたら、まず疑うべきはこの現象です。
一方で「数」は違います。今日何件電話をするか、今週何件提案を持ち込むか。これは自分で決められます。率は結果であり、数は行動である。そして営業がコントロールできるのは、行動のほうだけです。
もう一点、実務的な話を加えるなら、率は母数が小さいと、そもそも指標として機能しません。10件のうち3件で30%、次の10件で1件なら10%。この振れ幅の大半は運です。「自分の勝ちパターンはどこにあるのか」を率から読み取れるようになるためにも、まずは一定の数が要る。数は、率を語る資格を得るための前提条件でもあるのです。
営業とは「インプットを、顧客向けに変換する仕事」である
では、なぜ数をこなすと上手くなるのか。ここを言語化しておかないと、結局は根性論に戻ってしまいます。
私は、営業という仕事の本質は「インプットしたものを、目の前の顧客に合わせてアウトプットし直すこと」だと捉えています。
自社の製品知識、業界動向、他社の導入事例、過去の失注理由。営業は膨大なインプットを抱えています。しかし、それをそのまま並べても商談にはなりません。相手の課題、立場、関心に合わせて、順番を変え、言葉を選び、必要なものだけを取り出して届ける。この「変換」こそが営業の仕事です。
そして変換の質は、大きく二つの側面に分かれます。
〇変換の精度 ── 顧客に合わせてアウトプットを変えられるか
同じサービスの説明でも、経営者に話すのか、現場の責任者に話すのかで、語るべき切り口はまったく変わります。経営者には投資対効果や事業インパクト、現場には運用負荷や日々の手触り。頭では誰もが理解していることですが、商談の場で瞬時に切り替えられる人はそう多くありません。
〇変換の速度 ── アウトプットをスムーズに出せるか
商談は生ものです。想定していない質問が飛び、話の流れが変わり、残り時間も刻々と減っていきます。そのなかで淀みなく応じられるかどうかは、内容の正しさと同じくらい信頼を左右します。「持ち帰って確認します」が続く商談は、たとえ提案が的確でも、頼りなく映ってしまうものです。
重要なのは、この二つはいずれも知識量ではなく「変換を試みた回数」で磨かれるという点です。理解していることと、その場で口をついて出てくることの間には、想像以上の距離があります。その距離を埋める手段は、実際に変換してみた経験の蓄積以外にありません。
AIが賢くなるほど、差がつくのは「変換の回数」になる
ここに、いまの時代ならではの論点が加わります。
かつて営業力の差は、インプット量の差でもありました。業界知識をどれだけ持っているか、事例の引き出しがいくつあるか、訪問前にどこまで調べ込めるか。ここは努力量が素直に差になる領域でした。
しかし前回書いたとおり、AIに対象企業のIR資料やプレスリリースを渡せば、想定課題もアプローチの切り口も数分で整理できる時代になりました。つまり、商談に持ち込む「材料」の水準は、急速に横並びになっていきます。若手とベテランが、同じ質のリサーチメモを持って同じ商談に臨む。もう珍しい光景ではありません。
そうなったとき、何で差がつくのか。手元の材料を、目の前の相手に合わせてどう組み替え、どう渡すか。残るのはそこだけです。そしてこの変換は、AIに代行させることができません。相手の表情が曇った瞬間に説明の角度を変える、想定外の質問をチャンスに変える。この即応性は、本人が回数を重ねる以外に育てようがないからです。
少し皮肉な話ですが、効率化が進んだ時代だから数が要らないのではなく、効率化が進んだ時代だからこそ、数をこなした人の優位が際立つ。私はそう捉えています。
人は「階段状」に上手くなる。だから、その瞬間に立ち会う回数を増やす
数にこだわるべき理由が、もう一つあります。
営業の成長は、なだらかな右肩上がりの直線ではありません。多くの場合、ある日突然「あ、そういうことか」とコツを掴む瞬間が訪れ、そこから一段上がる。階段状に伸びていきます。ずっと商談が噛み合わなかったメンバーが、ある一件を境に別人のように話せるようになる。現場で何度も目にしてきた光景です。
やっかいなのは、その瞬間がいつ訪れるかは、本人にもマネージャーにも予測できないということです。20回目の商談で掴む人もいれば、80回目まで来ない人もいる。教え方を工夫すれば早まる部分はありますが、タイミングそのものを狙い撃ちすることはできません。
だとすれば、打てる手は一つです。その瞬間に立ち会う機会そのものを増やすこと。数をこなすというのは、気合いの話ではなく、発生時期の読めない出来事に対して母数を積み上げるという、きわめて合理的な戦略なのです。
マネージャーの立場で付け加えるなら、若手が伸び悩んでいるとき、私たちはつい指導の質を上げることばかり考えます。しかし現場を拝見すると、そもそも打席数が足りていないというケースが少なくありません。フィードバックの精度を上げる前に、振る回数が確保できているかを確認する。順番としては、こちらが先だと感じています。
追うべきは「総量」ではなく、「切り口ごとの数」
ここまで「数」と書いてきましたが、一つだけ注意点があります。数を「活動量の総和」と捉えてしまうと、この話は結局ノルマ論に逆戻りしてしまいます。
意識すべきなのは、「何の数を増やすのか」という切り口のほうです。前段で触れた「変換の精度」を上げたいのか、「変換の速度」を上げたいのか。それによって、増やすべき回数の種類は変わります。たとえば、こうした分け方が考えられます。
● 全体数:架電数、商談数、提案数といった土台の量
● 提案パターン別の数:この提案の型を、これまで何回使ったか
● 顧客タイプ別の数:この業界の顧客と何回話したか/この役職の相手に何回提案したか
● フェーズ別の数:初回商談は多いが、クロージングの場数は極端に少ない、など
● 論点別の数:価格の反論、競合比較、稟議の壁。それぞれに何回向き合ったか
自分が「何を、どれくらいの数こなしているか」を切り口ごとに眺めると、たいていの場合、はっきりとした偏りが見えてきます。練習していない球種は、本番では投げられません。苦手だと感じている領域は、多くの場合、才能の問題ではなく単純に回数が足りていないだけです。
運用としては、複雑にする必要はありません。期初に「今期、どの変換を磨くか」を一つ決める。月次の振り返りで「その切り口の数が何回増えたか」だけを確認する。この二つで十分に機能します。1on1の議題を「今月は何件やるか」から「今月は何の回数を増やすか」に変えるだけでも、会話の質は変わります。
つまり、数にフォーカスするというのは、闇雲に量を追うことではなく、「自分が磨きたい変換を、どの切り口で、あと何回やるか」を自分で設計することにほかなりません。ここまで来れば、もはや根性論ではないはずです。
「数を設計する情報」と、「数を生み出す情報」
そして、切り口を持って数を増やそうとすると、二種類の情報が必要になります。
一つは、数を設計するための情報です。「そもそも自分は、どの切り口で何回やっているのか」。これは記憶では到底追えません。商談情報が蓄積され、業界、企業規模、相手の役職、提案内容、フェーズといった切り口で振り返れる状態になって初めて、「この業界の経営層への提案は、まだ5回しかない」といった事実が見えてきます。見えていない数は、増やすことも設計することもできません。
NO.1で「リサーチ項目の標準化」、NO.3で「情報を学びに変える仕組み」、NO.4で「データの共通言語化」とお伝えしてきましたが、根っこはすべて同じです。情報が整理されていない組織は、数を増やすことはできても、数を設計することはできないのです。
もう一つは、数を生み出すための情報です。増やすべき切り口が決まっても、回数は勝手には増えません。同じ顧客に何度も足を運ぶにも、まだ縁のない業界の扉を叩くにも、「今日、なぜあなたに会いに来たのか」という文脈が要ります。
その文脈を最も安定して供給してくれるのが、顧客や業界に関する外部情報です。決算、人事、新規事業、業界規制の動き。ニュース一本が、一件の訪問理由になります。情報を持っている営業は、接点の数を自分の意思で増やせる。情報収集を仕組み化することの価値として、これは意外と語られてこなかった側面ではないかと感じています。
なお、Salesforceをご利用の場合は、ELNET for Salesforceを導入することで、顧客に関連した新聞記事を自動で検索・表示し、Salesforce上で情報収集を仕組み化することが可能になります。
自社の活動データで「どの数を増やすか」を決め、外部の情報で「その回数を実際につくる」。この二つが揃って初めて、数は設計可能なものになります。
まとめ:新しい話は、ひとつもない
今回お伝えしたかったことを整理します。
● 率は結果、数は行動。営業がコントロールできるのは数のほうである
● 営業はインプットを顧客向けに変換する仕事であり、変換は回数でしか磨かれない
● AIで材料が横並びになるほど、変換の回数を積んだ人の優位が際立つ
● 成長は階段状に訪れる。時期が読めない以上、立ち会う機会を増やすしかない
● 追うべきは総量ではなく切り口ごとの数。そのためには二種類の情報が要る
お読みいただいてお気づきのとおり、目新しい話はひとつもありません。「数をこなせば上手くなる」。誰もが一度は言われたことのある話です。
それでも書いたのは、当たり前すぎて誰も言わなくなったことほど、現場では静かに抜け落ちていくからです。仕組みも設計もAIも、間違いなく大切です。ただ、それらはすべて「一定の数をこなす人」の上に乗って初めて機能します。土台が薄いまま上物だけを磨いても、成果は安定しません。
才能も、市況も、顧客の予算も、自分では選べません。そのなかで唯一、自分の意思で動かせる変数が「数」です。そして、どの数をどう増やすかを設計できる状態をつくるのが、情報と仕組みの役割だと私は考えています。
気合いで回数を稼ぐのではなく、設計された回数を積み上げること。古くて新しいこの原則こそが、変化の速い時代に成長し続ける営業の土台になると確信しています。
Salesforce上に、取引先に関連する新聞記事を自動で検索・表示します。
次回以降のコラムも、ぜひご期待ください。
※本コラムはELNET外部の筆者が執筆しています。
執筆者プロフィール

八木 光(ヤギ ヒカル)
株式会社Goofy 代表取締役
立教大学卒業後、人材業界(Recruiteグループ、マイナビグループ)でキャリアをスタート。その後、経営コンサルティングや事業承継支援を経験したのちに、2021年に株式会社Goofyに取締役としてジョイン。2024年にはリブコンサルティンググループ(東証グロース上場)へ参画し、PMI業務に従事。GoofyではSFAコンサルティング事業/営業コンサルティング事業を立ち上げを行い、述べ200社以上の企業の営業組織設計/営業DX支援を行っている。2026年1月に同社代表へ就任。現在は「本当に成果の出るシステム/組織改善支援」を志し、自身も現場での顧客支援に奔走している。
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