【ELspot+】AI×広報業務のリアル~組織で成果を出すAI事例と活用術大公開~

【本日の流れ】
1:レクチャー:『電通広報部 M365 Copilot 活用事例のご紹介』
ゲスト講師:株式会社電通コーポレートワン ブランディングオフィス 広報室 広報部
ディレクター 韮山 由理 氏/李 相徳 氏
2:ワークショップ:「生成AIワークショップ~ニュースリリース作成編~」
3:質疑応答
4:参加者の感想
5:講師からのメッセージ
【主旨・背景】
生成AIの進化に伴い、広報の現場においても、業務の効率化や品質向上に向けたAI活用の動きが広がっています。しかし、実際の現場では、「AIは導入しているけど、検索や議事録作成・要約にしか使えていない」「AIで作る文章が平凡で、結局自分で一から書いている」――そんな悩みを抱えている広報担当者も多いのではないでしょうか。
そこで、2026年7月のELspot+交流勉強会では、広報業務におけるAI活用を本格的に実践し、革新的な成果を上げている株式会社電通コーポレートワン広報部(※)の韮山由理氏と李相徳氏をお迎えし、電通広報部でのAI活用事例をもとに、広報業務にAIをどう取り入れ、組織としてどう成果につなげていくのかを学びました。
前半のレクチャーでは、電通広報部におけるAIエージェント開発・活用の具体的プロセスをご紹介いただき、後半のワークショップでは、実際に電通広報部で使用されているプロンプトを用いて、AIを活用したリリース文の作成~評価~校閲~完成の流れを実体験しました。
本レポートでは、当日の内容・様子をお届けします。
(※)電通グループでは、国内約140社のうち一部のコーポレート機能を「株式会社電通コーポレートワン」に集約しており、講師の韮山氏・李氏は、株式会社電通コーポレートワンに所属しながら株式会社電通の広報業務を担当している。
【本日の交流勉強会】
1: レクチャー「電通広報部 M365 Copilot 活用事例のご紹介」

【Contents】
1)電通広報部におけるAI活用の経緯と領域~4つのカテゴリーと10の活用事例~
2)「リリース作成特化型AIエージェント」の開発プロセスと導入効果
3)これだけはお伝えしたいこと…
【Summary】
1)電通広報部におけるAI活用の経緯と活用領域~4つのカテゴリーと10の活用事例~
レクチャーは、電通広報部におけるAI活用の経緯と現状、活用領域の紹介から始まりました。
AI導入の経緯:2024年7月よりトライアル。2025年4月から本格運用開始
・ 「どのような広報業務にAIを活用できるか」をテーマに、2024年7月より韮山氏、李氏を含む数名でトライアル開始。その結果、有用性が確認できたため、2025年4月より本格運用。
・ 現在、広報部のチームメンバー11名でAI(M365 Copilot)を積極活用中。
AIの活用領域:「4つのカテゴリー」と「10の活用事例」
・現在、電通広報部でのAIの活用領域には、大きく分けて「4つのカテゴリー」「10の活用事例」がある。(図1)
- 4つのカテゴリー:「録る」「まとめる」「調べる」「書く」
- 10の活用事例:「会見要約~QA作成」「調査結果分析」「長文要約」「社内担当者探し」「文章添削」「リリース作成エージェント」など
図1:電通広報部のAI活用領域
● 「私自身、文系出身のため、AIに取り組む前までは『AIはハードルが高そうだな』という思いがありつつも、『取り組まなければ取り残されてしまうのではないか』という漠然とした危機感がありました。その中で頭と手を動かし試行錯誤してきた結果、社内での活用がようやくここまで広がってきたなという感じです」(李氏)
2)「リリース作成特化型AIエージェント」の開発・運用プロセスと導入効果
続いて、同社でのAI活用の代表事例として、「リリース作成特化型AIエージェント」の開発経緯と運用プロセス、導入効果について、詳しく説明いただきました。
ポイント①:そもそもの課題意識「リリース作成の生みの苦しみからの解放」と「電通らしさの追求」
・As Is①:年間150本超のリリースを作成。人力だと初稿の作成に1本4~5時間かかってしまう。
→ To Be①:AIを活用することで、リリース作成時間を短縮したい。
・As Is②:しかし、汎用的な生成AIで作成すると、平凡で無難な文章になってしまう。
→To Be②:「電通らしい」深みのあるリリース文の内容・品質を維持したい。
ポイント②:解決アプローチ_ベテラン広報部長のノウハウを学習したAIを開発
そこで、ベテラン広報部長(※)のノウハウ、視点、思考プロセス、修正傾向を理解した「リリース作成特化型AIエージェント」を開発し、リリース作成に活用することにした。(図2)
(※)河南周作氏:同社ブランディングオフィス エグゼクティブコミュニケーションオフィサー
兼 広報室長 兼 広報部長。広報歴27年、3,000本以上のリリースに関与
図2:リリース作成特化型AIエージェント「河南2号」
ポイント➂:AI開発のキーポイント:リリース文の「執筆条件」を細かく指示し、「正解データ」を理解させる
AIに下記の「指示」「ナレッジ」を読み込ませる。
・「指示」:リリース文の「執筆条件」を細かく指示する。
- 広報部長が行った「過去の修正(赤入れ)履歴」を取り入れる
- 自社の「広報表記ガイドライン」に従った単語表現を用いるように指示
- 自社の「リリース作成の手引き(虎の巻)」(構成ルール、留意点など)を守るように指示
・「ナレッジ」:「正解データ」として、過去に発表した自社のリリース文を参照して理解させる。
● 「よく、『自社で導入するなら何が最も重要か』と聞かれることがありますが、“暗黙知”として存在している社内独自のローカルルールやノウハウ(執筆条件)を“形式知化・可視化”することが最も大切だと思います。AIを触る前に、まずは自分たちの業務の棚卸しとルール化を行うことが重要です。それがAI活用を成功させる第一歩です」(李氏)
ポイント④:AIを活用した初稿作成プロセス : AIに読み込ませる資料の精度が重要
現場部署がリリース配信を希望する場合、まず、次の3つの資料を広報でAIに読み込ませて、リリース(初稿)を自動生成する。
- ①「エントリーシート」(基礎情報。現場が希望する配信日、内容、タイトルイメージなど)
- ②「概要説明資料」(発表するサービスや商品の特徴・スペック、プロモーション計画など)
- ③「キックオフミーティング文字起こし」(担当部署と広報部のキックオフミーティング内容)
● 「この3つの要素(エントリーシート、概要説明資料、ミーティングの文字起こし)の情報量が不足していると、AIも精度の高いリリースを作れません。AIの導入をきっかけに、私たち広報担当者も、『AIに質の高いリリースを作らせるために、最初の段階で現場からいかに正確で詳細な情報を引き出すか』を、いままで以上に意識するようになりました」(李氏)
ポイント⑤:さらなる改善・進化:部内で効果検証を行い、新たに2つの機能を追加
部内での効果検証結果を踏まえて、上司の添削傾向のさらなる分析・可視化に基づき学習を深めるとともに、新たに2つの機能を追加した。
・「記者視点評価」:リリースは、自分たちが伝えたいことだけでなく、記者やメディアの視点に立って書くことが大切。そこで、自社の魅力や価値を感じてもらえる文章になっているかを客観的に評価するプロンプトを開発。
- 記者視点:話題性、読者メリットの具体性、事業・市場インパクト、独自性など
・「日本語校閲」:対外発表する文章のため、日本語としての言葉遣いに間違いはないか、過度な表現になっていないかなどの校閲視点に基づいたプロンプトを開発。
- 校閲視点:誤字脱字、助詞の誤用、誇張表現や広告っぽく見える言い回しなど
ポイント⑥:導入効果_リリース作成工数が半減(チーム全体で年間約400時間の工数削減)
ポイント⑦:今後の展開_広報特化型AIエージェントの開発と連携構想
・今後は、「リリース作成エージェント」をより進化させるとともに、オフィス内の複数メンバーで開発を進めている他のAIエージェント(社内報記事作成エージェント、調査データ分析エージェント、dentsuブランド熟知(社史)エージェントなど)を連携(オーケストレーション)させて、より「電通らしい」コンテンツを、より効率的に作成できるようAI活用環境を整備・構築する予定。(図3)
図3:広報特化型AIエージェントの開発と連携構想
3)これだけはお伝えしたいこと…
▶ メッセージ①:AIの専門知識がなくても大丈夫
「紹介したAIエージェントは、文系出身の私がすべてノーコード(自然言語)で作成しました。AIの専門知識を学ぶことも重要ですが、『自分の業務のどこにAIが使えるか』を考えて、とりあえず手を動かすことも大切です」(李氏)
▶ メッセージ②:AIの導入は、組織力の強化にも好影響がある
「チーム内でAIを使ってみた気づきや情報をシェアするカルチャーが自然発生して、チームのコミュニケーションが活性化しました」(李氏)
▶ メッセージ③:AIを最良のパートナーにするには、「AIの筋トレ」が必要
「日本マイクロソフト株式会社の津坂美樹社長が言われるように、AIは使わないとやり方を忘れてしまうものです。筋トレと同様、AIも毎日繰り返し活用することで、業務効率化やアイデア創出の強力なパートナーになってくれます」(李氏)
2:ワークショップ「生成AIワークショップ~ニュースリリース作成編~」
レクチャーに引き続き、電通広報部のAI活用実践に基づき、「ニュースリリース作成の効率化と品質底上げ」を30分で体感するワークショップを行いました。(図4)
※ワークショップは架空の案件を題材として実施しています。
図4:ワークショップの流れ
【配布資料】
・資料①:新商品企画書(企業情報、製品概要、販売・プロモーション計画、等)
・資料②:ニュースリリース初稿作成用プロンプト(電通広報部使用のプロンプトに近いもの)
・資料③:ニュースリリース評価用プロンプト(同上)
・資料④:ニュースリリース校閲用プロンプト(同上)
【ワークショップの4ステップ】
・STEP1_確認:「新商品概要資料」の内容を(人間が)確認・理解する。
・STEP2_初稿作成:「初稿作成用プロンプト」で初稿を作成する。
- AIの役割(ペルソナ)は、「経験豊富な広報担当者」
・STEP3_評価→2稿作成:「評価用プロンプト」で客観評価し、2稿に反映する。
- AIの役割(ペルソナ)は、「ニュースリリース専門の第三者編集者」
・STEP4_校閲→完成:「校閲用プロンプト」で日本語校閲し、3稿が完成。
- AIの役割(ペルソナ)は、「日本語校閲のプロフェッショナル」
ニュースリリース作成にAIを活用する上で大事なこと
▶ メッセージ①:情報の“丸投げ”は厳禁
「情報を“丸投げ”してしまうと、AIのアウトプットは非常に質の低いものになります。これは人間同士の業務指示と同じです。曖昧な指示ではなく、背景、目的、トーン&マナーなどを丁寧に指定して渡すことが、AIから高品質なアウトプットを引き出す最大のポイントです」(韮山氏)
▶ メッセージ②:AIの役割を変えながら、Step by Stepで進める
「1つのプロンプトで一気にすべてを行わせるのではなく、ステップごとに“役割”を切り替えてAIに実行させることが、アウトプットの精度・品質を劇的に高めるコツです」(韮山氏)
▶ メッセージ③:最後は、必ず人間が仕上げる
「ニュースリリース作成においては、生成AIは“作業者”で、人間が“編集者”です。AIの完成度は所詮70~80%程度。100%に仕上げるのは人間の仕事です。最終アウトプットは人間が必ず確認してください」(韮山氏)
3:質疑応答
Q1:私は現在、社内でAI推進担当をしているのですが、中にはAIに対して前向きではない人もいます。そういう人たちに対しては、どのように対応すればいいのでしょうか。
A1:「必ずしも全員が一様にAIを活用する必要はないと思います。たとえば、ベテラン社員の方であれば、本人はあまりAIを使わなかったとしても、ご自身の豊富な経験やノウハウを形式知化してもらい、それをAIの学習に活かすという役割を担っていただくこともできると思います。ですから、新しい技術や手法を導入・浸透させる時には、適材適所で取り組むのがいいと思います」(李氏)
Q2:新入社員や若手メンバーに最初からAIを使わせると、業務スキルが身に付かないのではないかという懸念もあると思うのですが、そこはどう考えればいいでしょうか。
A2:「AI活用で大事なのは、アウトプットよりもインプットです。いかに良質のインプットデータを集められるかが重要で、新入社員や若手を指導する際には、そのスキルをいち早く自分のものにしてもらうところに重きを置くのがいいかと思います」(韮山氏)
Q3:リリース作成・評価・校閲のプロンプトは、具体的にはどのように作成されたのでしょうか。
A3:「リリース作成のプロンプトは、主に社内のルールや虎の巻を参考にしながら私(李氏)が同僚にも助けてもらいながら作成しました。評価・校閲のプロンプトは、私が評価・校閲の基準を作った上で、それをAIに伝えて、『あなた(AI)にとって分かりやすいプロンプトを作成してください』と指示してAIに生成してもらいました。最近のAIは進化していますから、AI自身に作ってもらう方法は非常に有効です」(李氏)
4:参加者の感想
交流勉強会の参加者から、次のような感想がありました。
・AIエージェントやCopilotの実践的な活用方法、実際の広報業務での事例を知ることができ、大変参考になりました。自社での導入・活用のイメージが具体的に湧きました。
・現在AI活用を進める中で感じていた課題や疑問が整理され、自分たちの取り組みに自信を持つことができました。他社事例も参考になり、自社の今後の方向性を考える良い機会になりました。
・プレスリリース作成に役立つプロンプトや作成プロセスを具体的に学べ、すぐに業務で活用できそうだと感じました。共有いただいたプロンプトは社内でも展開したいと思います。
・ワークショップ形式で実際に手を動かしながら学べたため、実務へ落とし込みやすい内容でした。すぐに試してみたいと思える学びが多くありました。
・内容が非常に充実しており、実践的なノウハウや講師の知見まで具体的かつ幅広く学ぶことができ、大変満足しています。有意義な勉強会を開催していただきありがとうございます。
5:講師からのメッセージ
・今回ご紹介した内容は、特別な技術者が開発したものではなく、広報業務の現場で試行錯誤を重ねながら作り上げてきたものです。今回の内容が、広報業務におけるAI活用を気軽に試してみるきっかけとなれば嬉しく思います。本当にありがとうございました。(韮山)
・今回は講師として貴重な機会をいただき、ありがとうございました。各社広報が抱える課題には共通点が多いと改めて感じました。今後もお互いの知見や解決事例を共有しながら、広報業務における新たな課題解決につなげていければと思います。(李)








