【ELspot+】実例から学ぶ!リスクを味方につける広報術~危機を企業価値向上に転換する実践メソッド~

【本日の流れ】
1:レクチャー:リスクを味方につける広報術~危機を企業価値向上に転換する実践メソッド~
ゲスト講師:大杉 春子 氏/コミュニケーション戦略アドバイザー (レイザー株式会社代表取締役、日本リスクコミュニケーション協会代表理事)
2:質疑応答
3:参加者の感想
4:講師からのメッセージ
【背景】
SNS社会においては、情報の拡散スピードがますます加速し、企業のレピュテーションリスクが一瞬で経営問題になります。それに伴い、危機管理広報の重要性が増しています。
危機管理広報の目的は、有事に際して目の前の危機に対応することだけではありません。適切な判断と誠実なコミュニケーションにより危機を好転させ、リスクを“信頼回復の機会”へと転換する広報戦略が、いま求められています。
そこで、3月のELspot+では、多くの民間企業や地方自治体・省庁での危機案件対応に豊富な実績を持つ、日本リスクコミュニケーション協会代表理事/レイザー株式会社代表取締役の大杉春子氏を講師にお招きし、「リスクを味方につける広報術」をテーマに交流勉強会を開催しました。講義では、「危機管理広報の本質とは何か」「危機を好転させるコミュニケーションのあり方」「平時の準備と有事の対応」「リスクマネジメントのプロセス」などについて、ワークショップを交えながら詳しく紹介・解説いただきました。
本レポートでは、交流勉強会当日の内容・様子をお届けします。
【本日の交流勉強会】
1: リスクを味方につける広報術~危機を企業価値向上に転換する実践メソッド~(大杉 春子 氏)
ゲスト講師:大杉 春子 氏/コミュニケーション戦略アドバイザー (レイザー株式会社代表取締役、日本リスクコミュニケーション協会代表理事)
レイザー株式会社 https://razer.co.jp/
日本リスクコミュニケーション協会 https://www.rcij.org/

【Contents】
1)ワークショップ:『SNS炎上発生時、広報が取るべき初動対応の優先順位は?』
2)危機管理広報(リスクコミュニケーション)とは何か?
3)いま、危機管理広報が求められている背景
4)危機を好転させるコミュニケーションの要素(事例)
5)危機管理広報の実践~平時の準備、有事の対応~
6)リスクマネジメントにおける重要な考え方・姿勢
7)まとめ:なぜ、危機管理広報が重要なのか?
【Summary】
1)ワークショップ:『SNS炎上発生時、広報が取るべき初動対応の優先順位とは?』

レクチャーは、ある企業でのSNS炎上の想定事例を題材に、「広報が取るべき初動対応」のあり方を考えるワークショップから始まりました。危機発生時、広報が取るべき初動対応としては、「証拠保全」「人命確認」「経営報告」「事実確認」「社内統制」「公式発信」などがありますが、これらはどのような順番で行うべきでしょうか?――。大杉氏は、ケースバイケースであるとしながらも、大事なポイントとして次のように述べました。
●「まず大事なのは『証拠保全』です。何が起こったのかを正しく把握・記録する必要があります。そして、それが人命に関わる事案であれば、『人命確認』が欠かせません。その上で大事なことは、情報の伝達順序です。具体的には、社外への『公式発信』の前に、必ず社内に対する『社内統制』(会社の姿勢を社内に緊急通知すること)を行うことが重要です。しかも、これらの対応を限られた時間内に、同時並行で行う必要があります」(大杉氏)
2)危機管理広報(リスクコミュニケーション)とは何か?
ワークショップにより有事の緊張感を体感した上で、レクチャーは「危機管理広報とは何か」に移りました。大杉氏は、危機管理広報には大きく分けて次の3つの要素があると言います。
①監視・発見(煙の感知):煙が上がっている状態をいち早く見つけ出すこと
②リスクマネジメント(消防訓練):火事が起きないように、あるいは起きても最小限で済むように訓練する平時の準備
③クライシスマネジメント(消火活動):実際に火が上がった際に行う有事の対応 。
その上で、危機発生時に忘れてはならない重要な点として、2つの人間心理傾向を挙げました。
▶ 有事の際、人間はIQが平均13ポイント低下し、冷静な判断ができなくなる。
▶ 同質なメンバーが集まると集団浅慮(グループシンク)が働き、非合理で誤った意思決定を下してしまう傾向がある。
3)いま、危機管理広報が求められている背景
次に、現代において危機管理広報が求められている背景として、大杉氏は次の点を挙げました。
▶ SNSの拡散スピードが極めて速くなり、わずかな情報でも短時間で大規模に広がる。
▶ レピュテーション(企業の評判)リスクが企業価値に与える影響は、想像以上に大きい。
▶ 時代の変化が加速している中、リスクトレンドへのキャッチアップ(※)が重要になっている。
(※)たとえば、「ポリティカルコレクトネス」や「マイクロアグレッション」への配慮が多様化し、1年前には問題のなかった表現が、現在は炎上の火種になるケースが増えている。
4)危機を好転させるコミュニケーションの要素(事例)
「“最上級の”危機管理広報とは、単に目の前で起きている問題を鎮静化させることではなく、危機を好転させて企業価値(株価等)の向上につなげることです」と、大杉氏は言います。では、どうすればいいのか――。大杉氏は2つの成功事例を紹介されました。
▶事例1:GRAZA(グラザ社)の「体温が感じられる謝罪メール」:
ある年のクリスマスシーズンに、オリーブオイルを扱う「グラザ社」で配送ミスが多発した。その際、同社のCEOが行ったことは、AIが作ったような完璧な文章ではなく、「誤字脱字だらけだが、CEO自身の“体温が感じられる”飾らない言葉」でのメールによる謝罪だった。これが大絶賛され、最終的には『ウォール・ストリート・ジャーナル』で「成功の科学」として取り上げられた。
▶事例2:Facebookの「丁寧な公聴会対応」:
マーク・ザッカーバーグ氏がデータ流出問題で公聴会に呼ばれた際、彼はいつものTシャツを脱ぎ、高級スーツに身を包んで、誠実かつ丁寧な言葉で40回以上の謝罪(I’m sorry)を行った。この対応の良さから、公聴会の10時間の間に時価総額が170億ドル上昇した 。
● 「誤字脱字だらけでもいいんです。その場を取り繕おうとするのではなく、飾らない口調で、何が悪かったのか、なぜそうなったのかを丁寧に伝えることが、心に響くのだと思います」(大杉氏)
5)危機管理広報の実践~平時の準備、有事の対応~
「危機管理広報の9割は、平時の準備で決まる」と、大杉氏は言います。平時にすべきステップは、次の3つです。
《平時の準備》
①場をつくる:有事の際の緊急対策委員会のメンバーを決め、どう対応すべきかを決めておく
②知識を共有する:何がリスクで、何が炎上するのかという感度を共有する
③リスクの洗い出しと対応策の決定:誰が、どこで、何を意思決定するのか、ツールや連絡先を明確にしておく
《有事の対応》
また、有事の際に必要となる対応として、アメリカのCDC(米国疾病予防管理センター)が定めた「6つの原則」を紹介されました。
①初動の迅速さ:迅速に情報を発信して状況をリードすること
②正確性:「分かっていること」と「まだ分かっていないこと」を含めて伝えること
③共感の表明:被害者や関係者への共感と配慮を示し、不安に寄り添うこと
④行動喚起:受け手が取るべき具体的な行動(やるべきこと)を提示し、不安をやわらげる
⑤敬意の保持:受け手に敬意を払うこと
⑥透明性の確保:情報を隠さずに開示し続け、誠実さと真実性を持ち続けること
● 「この中でも、日本企業にとって特に重要なことは、『③共感の表明』『⑤敬意の保持』『⑥透明性の確保』だと思います。また、有事の際には、自身のIQが低下することを自覚し、全体を冷静に俯瞰する『ヘリコプタービュー』や、対応すべき優先順位を決めておく『プライオリティ・ジャッジメント』が重要になります」(大杉氏)
6)リスクマネジメントにおける重要な考え方・姿勢
次に、リスクマネジメントを行う上で重要となるポイントについて強調されました。
▶リスクを避けるのではなく、能動的にテイクする:
「何らかの『目的』を持って行動する場合には、必ず何らかの『リスク』が存在します。ですから、リスクを避けるのではなく、能動的にリスクを取りに行きながら、リスクをマネジメントする姿勢が重要です」(大杉氏)
▶「緊急ではないが重要なこと」に、意識的に取り組む:
「『緊急性』と『重要度』の2軸で考えた場合、リスクマネジメントは『緊急ではないが重要な』領域に位置づけられます。人はどうしても緊急性の高い業務に追われがちですが、この領域を平時から意識的に行うことが、有事の危機を好転させることにつながります」(大杉氏)
7)まとめ:なぜ、危機管理広報が重要なのか?
最後のまとめとして、危機管理広報の重要ポイントとして大杉氏は次の3点を挙げました。
①企業も人も必ずミスをする:
「100%の予防は不可能です。しかし、ミス後の対応次第で信頼は回復でき、企業価値を好転させることができます」(大杉氏)
②人は有事に冷静ではいられない:
「不安・焦り・怒りが判断を狂わせます。だからこそ、事前の備えが不可欠です」(大杉氏)
③平時の準備と連携で、「判断の質」が変わる:
「関係者の意思統一が、危機時の“最初の一手”を決めます」(大杉氏)
2:質疑応答
Q1:現場がリスク対策を提案しても、上層部の腰が重い場合はどうするべきでしょうか?
A1:「危機管理研修を定期的に行うのが有効だと思いますが、それが難しい場合は、平時から、他社の炎上事例を共有したり、危機管理が企業価値向上や社員の心理的安全性につながった事例を共有したりすることが重要かと思います。その際、感情論ではなく、事実ベースのエビデンスを提示することが重要です」(大杉氏)
Q2:SNS炎上時などの場合、企業は炎上相手に対してどう対応すればいいでしょうか?
A2:「炎上時は相手に振り回されるのではなく、企業としてのスタンスを明確にすることが重要だと思います。すべての声に応える必要はなく、影響力のある意見を見極めるべきです。静観する勇気も必要です。言えないことは言えないとしつつも、有事を“自社の姿勢を世間に深く伝える機会”と捉え、誠実に対応することが重要だと思います」(大杉氏)
3:参加者の感想
今回の交流勉強会の参加者からは、次のような感想がありました
・「危機管理広報の真の目的は、リスクを好機(企業価値向上)に変えることだ」という視点は大きな学びになりました。「危機管理広報」というと受動的なイメージがありましたが、「リスクテイク」という言葉で前向きに捉えることができました。
・「危機管理広報の重要性」から「危機発生時の対応方法」「経営陣への重要性の訴求方法」まで、実践的かつ体系的な内容で非常に参考になりました。
・企業活動には様々なリスクが内在化しているので、それを洗い出す作業の必要性を実感しました。平時の危機対策は、通常業務もある中で軽視されがちですが、1日30分程度でも良いので、日常から意識したいという気持ちになりました。
・ワークショップがあったため、他社の広報の方と交流ができ有意義でした。まずは部内会議で、今日のワークショップの内容を実施してみます。
4:講師からのメッセージ
・危機こそ、企業の本質が問われる瞬間です。リスクを恐れるのではなく、誠実なコミュニケーションで信頼を築く力こそが、これからの広報担当者に欠かせないものだと思います。皆さんの会社が今後、どんな困難な局面に直面しても、今日の学びが少しでもお役に立てれば幸いです。









