【ELspot+】 『パーセプションチェンジの実践~「伝え方」で社会のイメージを変容させる広報戦略~』

【本日の流れ】
1:講演:パーセプションチェンジの実践~「伝え方」で社会のイメージを変容させる広報戦略~
ゲスト講師:小野 静香 氏(株式会社ヘラルボニー 広報室 シニアマネージャー)
2:質疑応答
3:参加者の感想
4:講師小野様からの感想
【背景】
「パーセプションチェンジ」とは、自社に対する顧客や社会の“認識(Perception)”を“変容(Change)”させることです。単なる情報発信による“量的な”認知度向上ではなく、自社の本質的なミッションやバリューを社会に正しく認識してもらうための“質的な”広報戦略です。さまざまな情報があふれるいま、これからの広報には、「どうやって自社が伝えたいことを社会に対して伝えるか」、そして、「それによってどう社会を動かしていくか」が求められています。
そのような中、国内外で高い評価を受けているのが 株式会社ヘラルボニーです。同社は、「プレスリリースアワード2024」でソーシャル賞受賞、さらには、「カンヌライオンズ2024」でもゴールドを受賞するなど、社会と企業をつなぐ新しい広報のあり方を体現しています。
そこで、11月のELspot+の交流勉強会では、同社の広報シニアマネージャー・小野静香氏をお招きし、「パーセプションチェンジの実践~『伝え方』で社会のイメージを変容させる広報戦略~」をテーマとして、社会とのイメージギャップをどう埋め、社会やメディアの心をどう動かしてきたのか、実践に基づくリアルな事例をお話しいただきました。
本レポートでは、講演内容のサマリー、および、参加者の方々の感想をお届けします。
【本日の交流勉強会】
1: 講演:「パーセプションチェンジの実践~「伝え方」で社会のイメージを変容させる広報戦略~」(小野 静香 氏)
ゲスト講師:小野 静香 氏(株式会社ヘラルボニー 広報室 シニアマネージャー)
https://www.heralbony.jp/careers/person/shizuka-ono
【Contents】
1)ヘラルボニーの企業ミッション~障害のイメージを変容し、社会に新しい価値観と文化を築く~
2)広報室のミッション~認識を変え、行動変容を促すコミュニケーション~
3)パーセプションチェンジのための3つのポイント~ヘラルボニーが実践する「伝え方」の工夫~
① 「伝わり方」の理想と現実のギャップを埋める~クリエイティブと言葉へのこだわり~
② 社会にインパクトを与えるファクトベースのPR
③ 伝え手(メディア)の熱量を高めるリレーションシップ
【Summary】
1)ヘラルボニーの企業ミッション~障害のイメージを変容し、社会に新しい価値観と文化を築く~
最初に、小野氏からヘラルボニーのミッションとビジネスモデルについて紹介いただいた。
●「ヘラルボニーは、主に知的障害のあるアーティストの描いたアートデータをライセンス契約し、そのアートを基にさまざまなプロダクト、イベント、空間に展開することで、“障害のある方へのネガティブなイメージを変える”ことに挑戦しているスタートアップ企業です。
企業ミッションは、『異彩を、放て。』。私たちは、障害のあるアーティストを『異彩のあるアーティスト』と呼び、障害のイメージを変容させ、社会に新しい価値観と文化を築くことをミッションとしています」(小野氏)
※詳しくは、ヘラルボニーのホームページをご覧ください。
https://www.heralbony.jp/about
2)広報室のミッションと活動~認識を変え、行動変容を促すコミュニケーション~
次に、ヘラルボニー広報室のミッションについて述べられた。
●「ヘラルボニー広報室のミッションは、会社のミッションとイコールです。すなわち、単に企業活動や事業を知ってもらうだけではなく、『障害に対する認識を変え、人びとの行動変容を促すことのできるコミュニケーション』をめざしています。
そのためには、社会やメディアの皆さんが、障害のある方を「支援すべき存在」という上下関係ではなく、「対等なビジネスパートナーであり、かつ、リスペクトできる存在」として捉えられるようになるコミュニケーションが大事だと思っています」(小野氏)
3)パーセプションチェンジのための3つのポイント~ヘラルボニーが実践する「伝え方」の工夫~
では、そのためにヘラルボニーの広報室では、普段からどのようなことにこだわっているのか、メディアと対応する際にどのような工夫をしているのか――。小野氏は次の3つのポイントを挙げた。
① 「伝わり方」の理想と現実のギャップを埋める~クリエイティブと言葉へのこだわり~
●「ヘラルボニーが創業当初に直面していたのは、メディアが伝えたい『障害者支援・社会貢献・チャリティ』 といった文脈と、ヘラルボニーがめざす『障害のイメージの変容』『支援からリスペクトへ』というミッションとのギャップでした。そのギャップを埋めるために、私どもでは、『クリエイティブ』と『言葉』についてこだわっています」(小野氏)
▶ 「クリエイティブ」へのこだわり:「障害者アート」ではなく、あくまでも、「アート」としてのクオリティを高めるため、発信する映像や写真は必ずプロに依頼し、クリエイティブチェックを厳しく行っている。
▶ 「言葉」へのこだわり:「障害者アート」「障害者支援」という言葉で報じられないように、取材するメディアに対して、任意ではあるが、ヘラルボニーが大切にしている「ワーディングスタンス」(言葉の使い方、表記の基準)を伝えている(例:「障害者」ではなく「障害のある作家」、「障害を持つ」ではなく「障害のある」など)。
② 社会にインパクトを与えるファクトベースのPR
●「『障害』というテーマをいかに“自分事”として関心を持ってもらい、社会全体に広げるために、感情論ではなく、インパクトのある『ファクト』(実際にあったエピソード)を基にしたPRを行っています」(小野氏)
▶PR事例「鳥肌が立つ、確定申告がある」:ヘラルボニーの契約アーティストの中には、年収が数百万円を超え、確定申告をする人もいる、という“ファクト(事実)”を、『鳥肌が立つ、確定申告がある』というコピーで世の中に発信(確定申告が始まる時期に国税局のある霞ヶ関駅構内に掲出)。このアクションは。ACCのPR部門で「パーセプションチェンジを促した事例」としてグランプリを受賞した。
③ 伝え手(メディア)の熱量を高めるリレーションシップ
●「大事なことは、私たち社員と同じくらいの“熱量”を記者やディレクターの方々に持ってもらうことだと思っています。ですから、メディアの方々は、『一緒に社会を前進させる仲間』だと思ってリレーションシップを築いています」(小野氏)
▶ 作家本人に直接会ってもらう:記者会見や撮影現場に障害のある作家を呼んで、直接会ってもらう機会を作っている。
▶ 制作現場を実際に体験してもらい、ファンになってもらう:岩手や滋賀にある福祉施設(アトリエ)に来てもらい、作家の日常活動や制作現場を体験してもらうことで、“その作家のファン”になってもらえたらいいなと思ってご案内している。そうすることで、メディアの方々の作家に対する理解が深まり、“自分の言葉”で発信してくれるようになる。
2:質疑応答
◆ Q1:「ワーディングスタンス」を作成したきっかけと効果は?
◆ A1:創業当時、「障害者支援」「社会貢献」の文脈で取り上げられることが多かった。そのため、記事の文言に対する修正依頼も多かった。ただ、メディアに対して強制はできない。そこで、「弊社ではこういう言葉遣いを大切にしています。それはこういう考え方です」という説明をした。そうすることで、言葉の表記だけでなく、「考え方」を理解してもらえるようになった。
◆ Q2:「チームビルディング」で重視していることは?
◆ A2:チームで働く上では、「お互いにリスペクトし合える仲間であるという意識」が大事だと思う。そこで、広報のスキルマップを作成し、スキルを自己採点してもらった。そのことで、各メンバーのスキルが可視化され、お互いの得意分野・専門性(リスペクトできるスキル)がシェアされ、チーム意識が高まった。
3:参加者の感想
今回の交流勉強会の参加者からは、次のような感想がありました。
・会社全体で同じ熱量とビジョンを共有し、社会の価値観を変えるというミッションに本気で取り組んでいる姿勢が伝わってきました。
・「メディア=仲間」という視点は、とても重要だと思います。「ワーディングスタンス」をはじめとして、メディアとの丁寧で細やかな対話を通じて、自社の伝えられ方を変容させる最善策を学べました。
・ミッションや理念を外部に理解してもらうための具体的な取り組みが、売上や成果にしっかりと結びついている点が大変参考になりました。
・ 業種は異なりますが、広報実務に役立つTipsやヒントが豊富にあり、明日から自社に取り入れたい、新しい知識や発想への気づきが得られました。
4:講師小野様からの感想
セミナー会場が埋まるほど多くの方にご参加いただくことができ、とてもありがたい機会になりました。コミュニケーションを仕事にする上で、自分たちの熱量を冷めずに社会に伝えるためにはどうしたら良いか常々試行錯誤をしています。社会に新しい価値観を醸成していくために、今後もPRとして新しい挑戦を続けたいと思います。









