【広報コラム】パブリックリレーションズを経営に!NO.8「企業価値向上に向けたPR・広報活動とは?〜企業の中長期戦略を読み解く〜」

こんにちは。(株)電通PRコンサルティング 企業広報戦略研究所上席研究員の増田勲です。
この連載では、「企業価値向上に向けたPR・広報活動とは?」というテーマのもと、企業広報に求められる力について考察しています。
今回は、企業が描く中長期の経営戦略と、広報活動がどのように連動すべきかを読み解きます。
ちなみに、前回までのコラムはこちらをご覧ください。
↓ ↓ ↓ 前回のコラムはこちら ↓ ↓ ↓
第3回:https://www.elnet.co.jp/column/dprcolumn3/
第4回:https://www.elnet.co.jp/column/dprcolumn4/
第5回:https://www.elnet.co.jp/column/dprcolumn5/
第6回:https://www.elnet.co.jp/column/dprcolumn6/
第7回:https://www.elnet.co.jp/column/dprcolumn7/
中期経営計画を発表する企業が増加
いま、企業の多くが「中期経営計画」を通じて、自社の未来像を積極的に社会へ語り始めています。日本経済新聞(2025年7月6日付)によれば、2024年には過去最高となる696社が中期経営計画を発表しました。こうした動きの背景としては、コーポレートガバナンス・コードによる情報開示の強化や、コロナ禍を経た経営環境の変化、米国トランプ政権誕生による関税などの影響、そして、2030年という時代の節目を数年後に迎えるタイミングなど、様々な事象が考えられます。その中でも大きな影響を与えたのは、日本取引所グループが上場企業に対して株価や資本コストを意識するよう要請したいわゆる「PBR(株価純資産倍率)改革」ではないでしょうか。この「PBR改革」は、企業に対し「資本効率と企業価値を意識した経営」を迫るものであり、企業は戦略を社会へ説明し、市場の理解を得ることが不可欠になりました。
また、中期経営計画は、メディアからの注目度も高まっています。ELNETの記事検索サービスを使って、2022年と、2023年、2024年の各1年間で「中期経営計画」というキーワードを検索してみました。検索結果は、2022年で8775件、2023年で9156件、2024年で9351件と右肩上がりに増加していました。このように注目度が高まっている中期経営計画ですが、その中期経営計画で示されている経営戦略と、広報戦略はどのように連動していけばよいのでしょうか。
経営戦略と広報戦略は連動できているか?
ここで、興味深いデータを紹介いたします。以前にもこの連載で取り上げたデータなのですが、企業の広報活動に必要な9つの力のうちのひとつ、「目標設定力」に関する10の調査項目の実施率のデータです。
(当研究所では、企業の広報活動をStrategy、Activity、Managementの3つの領域に分け、それぞれに必要な9つの力を整理した「価値づくり広報モデル」を策定し、調査・研究を行っています。このモデルを用いて2024年に、上場企業約3,800社の広報担当責任者宛てに調査票を送付し、回答いただいた533社のデータを集計・分析しました。)
実施率が高いのは「短期的な広報活動計画の作成」、「ステークホルダーに伝えたい自社の社会価値の明文化」で、この2項目が半数を超えていました。一方、専門家が重視する1位の項目で、全体3位の「経営戦略とリンクした広報戦略の立案」は2022年の調査から、約10ptダウンして、43.2%となっています。この結果は、半数以上の56.8%が経営と連動していない広報戦略を立案してしまっている可能性があることを示唆しています。
日本広報学会が2023年に発表した新しい広報の定義は、「組織や個人が、目的達成や課題解決のために、多様なステークホルダーとの双方向コミュニケーションによって、社会的に望ましい関係を構築・維持する経営機能である」です。広報が経営機能であるとしていることを考えると、経営戦略と広報戦略の連動はこれまで以上に重要性が増していくことは間違いないでしょう。
市場やステークホルダーに理解されるために、中期経営計画で経営戦略を示しているにもかかわらず、その経営戦略と広報戦略とが連動していないということは、もしかしたら、経営層が描くビジョンや戦略と、社外に語られるメッセージが別々の方向性や言葉で語られてしまっているかもしれません。これは大きな問題です。
では、経営戦略と広報戦略を連動させるためには、どうすればよいのでしょうか。
「経済的価値」と「社会的価値」
私は、経営戦略と広報戦略の「目標・指標」を連動させることが重要だと考えています。
企業各社の英知を結集させて制作した中長期経営計画。それを公表している約50社分を読み込んでみると、「目標・指標」に関するひとつの傾向が見えてまいりました。経営戦略として、企業価値の向上を掲げる中で、企業価値の「目標・指標」として「経済的価値」と「社会的価値」の2系統を掲げる企業が増加しています。
「経済的価値」は、業績目標やPBR・ROE・ROICなど財務指標が主流となる一方で、「社会的価値」の指標は多様です。環境問題などの自然資本関連の指標を掲げる企業に加え、人的資本関連指標として「従業員エンゲージメントスコア」などを開示する企業も増加してきています。さらには非財務5資本に関連した指標を掲げる企業も多く見られます。企業の「非財務資本」を活用し、「社会的価値」の向上を目指す傾向が読み取れました。
非財務情報を活用して「社会的価値」の向上を
企業は、将来価値としての「非財務資本」を有効に活用しながら、「経済的価値」と「社会的価値」の両方を向上させていく計画を立てています。
本コラムの以前の回でも「非財務情報」は、将来価値であることを説明いたしました。
下の図に示すように、「財務情報」は過去の成績を示すのに対して、未来を知る手掛かりになるのが、「非財務情報」です。未来を語る「中期経営計画」の中で、成長のエビデンスとして「非財務情報」を活用しているようです。
いくつか事例を見てみたいと思います。例えば、キリンホールディングスは、「ヘルスサイエンス戦略」を掲げ、2027年までに1.35億人の生活者に健康インパクトを与えるという目標を明示。「社会的価値」を明確に数値化し、経営目標と連動させています。また、日清食品ホールディングスや、第一生命グループ、いすゞ自動車など多くの企業で見られたのは「人的資本」に関する目標設定で、女性管理職比率の向上や、育休取得率〇%の達成、従業員エンゲージメントの上昇などです。味の素では、「2030ASV指標」の中で、「社会価値指標」として、「環境負荷50%削減」や「10億人の健康寿命延伸」を掲げています。
このように、企業価値はもはや財務成果だけでは測れません。「社会的価値」つまり、社会との関係性をどう設計し、その関係性の中で、どのような価値づくりを行っていくのか。――――その答えを導き出すのも、広報戦略の役割かもしれません。
ELNETのクリッピングサービスは新聞約100紙、雑誌約30誌、WEBニュース約1,000サイトからの収集した記事情報をお届けします。
次回は、引き続き、企業が掲げる中長期の経営戦略の傾向を読み解きながら、広報と経営との連携の“ポイント”について深掘りしていきます。
次回もどうぞご期待ください。
※本コラムはELNET外部の筆者が執筆しています。
執筆者プロフィール

増田 勲
企業広報戦略研究所(電通PRコンサルティング内) 部長
広告代理店で約14年間、マーケティングコミュニケーション業務全般に携わる。2014年電通パブリックリレーションズ入社。ディレクション職として、飲料メーカー、外資系コーヒーチェーン、精密機器メーカー等を担当し、戦略シナリオの策定や商品・サービスのローンチ時期の戦略PRに従事。
現在は、企業広報戦略研究所で、「企業広報の発展」に寄与すべく、産学連携による調査研究・論文・学会発表等を実践。企業のブランディングや経営広報、KPIの設定、広報効果測定、新モデル開発等の業務を行う。経営管理学修士(MBA)。日本パブリックリレーションズ協会認定PRプランナー。
~お役立ち資料のご案内~

ビジネスに役立つ 情報収集の方法とコツ!
ビジネスでの情報収集の目的・方法・コツについて、わかりやすく説明します。
ダウンロードをご希望の方は下記フォームに必要事項を入力し、送信ください。












